「宿題やら掃除やらで忙しい」「嬉しいやら悲しいやら」のように、事柄を二つ並べて「他にもある」という含みを添える言い方がある。並列助詞「〜やら〜やら」の用法とは、同類の事柄を不確定に列挙し、多くは煩雑さや入り混じった感情を表す副助詞(並立助詞)の働きを指す。この用法を理解すると、自然な列挙表現が確実に身につく。
「〜やら〜やら」の用法を一覧で整理
| 項目 | 名詞の列挙 | 用言の列挙(感情・状態) | 他の並列表現との比較 |
|---|---|---|---|
| 基本機能 | 例となる物事を並べて挙げる | 入り混じった感情や状態を述べる | 並べ方の性質で使い分ける |
| 典型例 | 酒やらつまみやらを買う | 嬉しいやら恥ずかしいやらだ | たり、とか、や、と |
| 前に来る語 | 名詞 | 動詞・形容詞の終止形 | 品詞による |
| 主な意味 | 例示・煩雑さ | 感情の混在・困惑 | 完全列挙か例示か |
| 後ろの述語 | 買う、持つ、散らかる | 「で」「だ」で締める | 自由 |
| 含意 | 「ほかにもある」 | 「いろいろ重なって大変だ」 | 中立または例示 |
| 文体 | 話し言葉・口語的 | 話し言葉・口語的 | 書き言葉では「や」「と」 |
| 見分けの目安 | 「〜やら」が二つ以上並ぶ | 後ろに「で」「だ」が付く | 他の並列助詞に言い換える |
表の各項目の詳しい解説
- 基本機能
- 「〜やら〜やら」は、いくつかの事柄を例として並べ、全体を列挙しきっていないことを示す。「本やらノートやらが机に積んである」は、本とノート以外にも物があることを匂わせている。
- 単なる列挙ではなく、話し手が「多くて雑然としている」「入り混じっている」と感じていることが伝わる点が特徴である。
- 並列助詞のうち、不確定な例示と話し手の評価が結びついた表現である。
- 典型例
- 名詞の例は、「洗濯やら料理やらで一日が終わる」「お土産やら荷物やらで両手がふさがる」などである。
- 用言の例は、「泣くやら笑うやら大騒ぎだった」「寒いやら眠いやらで集中できない」などである。
- 「どうするやら」のように、疑問の語と結びついて不確かさを表す用法も別にある。
- 前に来る語
- 名詞には直接付く。「祭りやら花火やら」のようになる。
- 動詞・形容詞には、終止形に付く。「食べるやら飲むやら」「痛いやら悔しいやら」である。
- 形容動詞は、語幹ではなく終止形に近い形で、「静かだやら」とは言わず、「にぎやかやら」のように語幹に付く傾向がある。
- 名詞と用言を混ぜて並べることは、基本的に避ける。
- 主な意味
- 名詞に付く場合は、例示と煩雑さを表す。「宿題やら部活やらで遊ぶ暇がない」は、用事が重なっている状況を示す。
- 用言に付く場合は、相反する、または異なる感情が同時に生じる様子を表す。「嬉しいやら悲しいやら」は、一つの感情に決められない心の状態である。
- どちらの場合も、多くはマイナスや困惑を含むが、必ずしも否定的とは限らない。
- 後ろの述語
- 後ろには、「〜で大変だ」「〜でてんてこ舞いだ」のように、状態をまとめる表現が続く。
- 「やら」の後に格助詞「で」が付き、原因や状況を示す形が最も多い。「引っ越しやら手続きやらで忙しい」がその例である。
- 感情の列挙では、「嬉しいやら恥ずかしいやらで、言葉が出なかった」のように、結果を述べて文を結ぶ。
- 含意
- 「〜やら〜やら」には、列挙が不完全で、まだ他にもあるという含みがある。そのため、二つだけでも数が多い印象を与える。
- 「〜やら〜やら〜やら」と三つ以上並べると、混乱の度合いが一層強まる。
- 完全な列挙を示したいときには、「AとB」を用いる。「やら」は、あくまで例示であり、全体を限定しない。
- 文体
- 「やら」は口語的で、親しい会話や随筆などに向く。
- 論文や公文書では、「や」「と」「および」を用いるのが普通である。
- 日常会話では、似た意味で「〜とか〜とか」が好まれる。「やら」はやや古風で、話し手の感慨を込めた響きがある。
- 他の並列表現との比較
- 「や」は、例示として名詞を並べる。「本やノートを買う」は、中立的で、評価を含まない。
- 「と」は、完全な列挙を表す。「本とノートを買う」は、その二つだけを指す。
- 「たり」は、動作を例示的に並べる。「読んだり書いたりする」は、交互または並行する動作を示す。
- 「とか」は、例示を軽く並べる。「本とかノートとか」は、口語的で気軽な調子である。
- 「やら」は、これらの中で、話し手の困惑や煩雑さの実感が最も強く出る。
- 見分けの目安
- 次の手順で判別できる。
- 同種の事柄が「〜やら」で二つ以上並んでいるか確認する。
- 後ろに「で」や「だ」が付き、全体を総括しているか確かめる。
- 「〜とか〜とか」に言い換えても意味が通るか試す。
- 言い換えられれば、例示の並列助詞「やら」である。
- 「誰やら来た」「何やら音がする」のように、疑問語に付く「やら」は、不確かさを表す別用法として区別する。
- 次の手順で判別できる。
まとめ:「〜やら〜やら」を例示と実感から捉える視点
「〜やら〜やら」は、同類の事柄を不完全に並べ、煩雑さや入り混じった感情を表す並列助詞である。名詞か用言か、後ろに「で」が続くかを確かめれば、他の並列表現とも使い分けられる。自然な話し言葉と日本語指導に役立つ視点である。