【プロ講師解説】このページでは『放射性同位体(例・一覧・各種壊変、入試問題の解き方など)』について解説しています。本稿では、放射性同位体の基本的な概念から、3種類の核壊変(α壊変、β壊変、γ壊変)、日常生活における応用例、そして核反応の理解、最後に学びのまとめまでを詳細に解説します。放射性同位体は、私たちの身の回りの様々な分野で重要な役割を果たしており、その理解は科学技術の進歩に不可欠です。
放射性同位体とは
同位体と放射能
元素には、原子番号(陽子の数)が同じで中性子の数が異なる原子が存在します。これらは同位体(どういたい、同位体:どういたい)と呼ばれます。例えば、炭素(元素記号:C)には、中性子の数が異なる 12C、13C、14Cなどの同位体が存在します。
これらの同位体の中で、原子核が不安定で、放射線(ほうしゃせん、放射線:ほうしゃせん)を放出して別の原子核に変わる(壊変:かいへん)性質を持つものが放射性同位体(ほうしゃせいどういたい、放射性同位体:ほうしゃせいどういたい)です。この放射線を放出する能力を放射能(ほうしゃのう、放射能:ほうしゃのう)と言います。
放射性同位体の例
身近な放射性同位体としては、以下のようなものがあります。
- 炭素14 (14C):年代測定に利用されます。
- ヨウ素131 (131I):甲状腺の診断や治療に用いられます。
- コバルト60 (60Co):医療分野での放射線治療や、工業分野での非破壊検査に利用されます。
- セシウム137 (137Cs):原子力発電所の事故などで環境中に放出されることがあります。
半減期
放射性同位体の原子核の数は、時間とともに減少していきます。この減少の速さを表すのが半減期(はんげんき、半減期:はんげんき)です。半減期とは、ある放射性同位体の原子核の数が半分になるまでの時間のことを指します。半減期は放射性同位体の種類によって異なり、数秒のものから数十億年以上のものまで様々です。
例えば、炭素14の半減期は約5730年です。これは、ある量の炭素14が半分になるまでに約5730年かかることを意味します。さらに5730年後には、残りの半分、つまり元の量の1/4になります。
三種類の核壊変
放射性同位体は、不安定な原子核を安定化させるために、様々な形で放射線を放出します。代表的な核壊変(かくかいへん、核壊変:かくかいへん)には、α(アルファ)壊変、β(ベータ)壊変、γ(ガンマ)壊変の3種類があります。
α(アルファ)壊変
α壊変(アルファかいへん、α壊変:アルファかいへん)は、不安定な原子核がヘリウムの原子核(α粒子)を放出する現象です。α粒子は、陽子2個と中性子2個で構成されています。
α壊変が起こると、元の原子核(親核種:おやかくしゅ)の原子番号は2減少し、質量数は4減少します。生成された新しい原子核(娘核種:むすめかくしゅ)は、親核種とは異なる元素になります。
例:ウラン238 (238U) のα壊変

この反応では、ウラン238はα粒子を放出し、トリウム234に変わります。原子番号は92から90へ、質量数は238から234へ変化しています。
β(ベータ)壊変
β壊変(ベータかいへん、β壊変:ベータかいへん)には、β−壊変とβ+壊変の2種類がありますが、ここではβ−壊変について説明します。β−壊変は、原子核内の中性子が陽子に変化し、その際に電子(β−粒子)と反電子ニュートリノを放出する現象です。
β−壊変が起こると、質量数は変化しませんが、原子番号は1増加します。これは、中性子が陽子に変わるため、原子核内の陽子の数が増えるからです。
例:炭素14 (14C) のβ−壊変

この反応では、炭素14の中性子が陽子に変わり、窒素14になります。質量数は14のままですが、原子番号は6から7へ増加しています。
γ(ガンマ)壊変
γ壊変(ガンマかいへん、γ壊変:ガンマかいへん)は、α壊変やβ壊変の後に、原子核がエネルギー的に不安定な励起状態(れいきじょうたい、励起状態:れいきじょうたい)になった場合に起こります。励起状態の原子核は、余分なエネルギーを電磁波であるγ線(ガンマせん、γ線:ガンマせん)として放出することで、より安定な状態に戻ります。
γ壊変では、原子核の質量数や原子番号は変化しません。単にエネルギー状態が変化するだけです。
例:コバルト60m (60mCo) のγ壊変

ここで、60mCoは励起状態のコバルト60を表しています。γ線を放出して、基底状態(きていじょうたい、基底状態:きていじょうたい)のコバルト60になります。
核壊変のまとめ
| 壊変の種類 | 放出される粒子 | 原子番号の変化 | 質量数の変化 |
| α壊変 | ヘリウム原子核 (24He) | -2 | -4 |
| β−壊変 | 電子 (e−) | +1 | 0 |
| γ壊変 | γ線 | 0 | 0 |
日常生活での応用
放射性同位体は、科学研究だけでなく、医療、工業、農業など、私たちの日常生活の様々な分野で応用されています。
医療分野
- 診断:放射性同位体を標識とした薬剤(放射性医薬品:ほうしゃせいいやくひん)を体内に投与し、その分布を特殊なカメラで撮影することで、臓器の機能や病巣の状態を調べることができます。例えば、ヨウ素131は甲状腺の機能検査に、テクネチウム99mは骨や心臓などの様々な部位の検査に用いられます。
- 治療:放射線治療では、がん細胞に対して集中的に放射線を照射することで、がん細胞を破壊します。コバルト60やイリジウム192などが線源として利用されます。また、甲状腺がんの治療には、ヨウ素131の内服療法が行われます。
工業分野
- 非破壊検査:放射線を金属材料などに照射し、透過した放射線の強度を測定することで、内部の亀裂や欠陥を検出することができます。イリジウム192やコバルト60などが用いられます。
- 厚さ・密度測定:シート状の製品の製造ラインなどで、放射線の透過量を利用して、製品の厚さや密度を連続的に測定・制御することができます。
- トレーサー利用:放射性同位体を特定の物質に混ぜて、その物質の移動や拡散の経路を追跡することができます。例えば、工場の排水の流れを調べるために利用されます。
農業分野
- 品種改良:植物の種子に放射線を照射することで、突然変異を誘発し、病気に強く、収穫量の多い新品種を開発する研究が行われています。
- 害虫駆除:不妊化処理を施した害虫を大量に放ち、野生の害虫との交配によって害虫の数を減らす方法(不妊虫放飼法:ふにんちゅうほうしほう)に放射線が利用されます。
- 食品照射:食品に放射線を照射することで、殺菌や殺虫、発芽抑制、熟成遅延などの効果が得られます。これにより、食品の安全性の向上や長期保存が可能になります。
年代測定
- 炭素14年代測定法:考古学や地質学において、有機物の年代を測定するために広く用いられています。生物が生きている間は、大気中の炭素14を取り込みますが、死滅すると炭素14の取り込みが停止し、半減期に従って減少していきます。残存する炭素14の量を測定することで、その有機物がいつ死滅したかを推定することができます。
- カリウム-アルゴン年代測定法:岩石に含まれる放射性同位体であるカリウム40が、半減期を経てアルゴン40に壊変する性質を利用して、地層や岩石の年代を測定する方法です。
核反応の理解
放射性同位体の生成や、原子力発電などで利用されるエネルギーは、原子核反応(かくはんのう、核反応:かくはんのう)によって生み出されます。核反応には、核分裂(かくぶんれつ、核分裂:かくぶんれつ)と核融合(かくゆうごう、核融合:かくゆうごう)の2つの主要なタイプがあります。
核分裂
核分裂は、重い原子核(例えばウラン235)が中性子を吸収することで不安定になり、より軽い2つ以上の原子核に分裂する現象です。このとき、大量のエネルギーと数個の中性子が放出されます。放出された中性子がさらに他の原子核に吸収され、連鎖的に核分裂反応が起こることで、莫大なエネルギーが放出されます。これが原子力発電の原理です。
例:ウラン235の核分裂反応の一例

核融合
核融合は、軽い原子核(例えば水素の同位体である重水素と三重水素)同士が非常に高い温度と圧力の下で結合し、より重い原子核(ヘリウム)になる現象です。このとき、莫大なエネルギーが放出されます。太陽などの恒星のエネルギー源は核融合反応です。地球上での核融合発電の実用化に向けた研究が進められています。
例:重水素と三重水素の核融合反応

本稿では、放射性同位体の基本的な概念、3種類の核壊変(α壊変、β壊変、γ壊変)、日常生活における多様な応用例、そして核反応の基礎について解説しました。放射性同位体は、その不安定な性質を利用して、医療診断・治療、工業における非破壊検査や品質管理、農業における品種改良や食品照射、そして考古学や地質学における年代測定など、幅広い分野で私たちの生活を支えています。また、核分裂や核融合といった核反応は、エネルギー源としても重要な役割を果たしており、その理解は現代社会において不可欠と言えるでしょう。放射性同位体に関する知識を深めることは、科学技術の進歩を理解し、より良い未来を築くための一歩となります。